eLearning/Greek/Oratio

Introduction

Last updated: 2008/11/15 by MATSUURA Takashi

初期の弁論

ギリシア人の弁論好きは有名であり、すでにホメーロスにその例が見られる。『イーリアス』第9巻の、アキッレウスへの使者の場面、悲劇の使者のせりふ、トゥーキューディデースの中のペリクレースの葬送演説など、ジャンルを問わず、弁論・雄弁術が用いられている。

弁論術

もともと弁論は理論ではなく実践によって身につけるものであったが、紀元前5世紀の中頃のシチリアで、コラクス(Κόραξ; Corax)やその弟子のテイシアース(Τεισίας; Tisias)によって弁論「術」(ῥητορική [sc. τέχνη])としての研究が始まった。

弁論の3分類

弁論はアリストテレースや、その後の修辞学者によって次の3種類に区分されている。以下は Arist. Rhet. 1358b7--8(1.3)による。

  1. 議会弁論(συμβουλευτικός [sc. λόγος]; political/deliberative oratory)
  2. 法廷弁論(δικανικός; judicial/forensic oratory)
  3. 演示弁論(ἐπιδεικτικός; display/demonstrative/epideictic oratory)

議会弁論は民会(ἐκκλησία; ecclesia; Assembly)で行われる弁論、法廷弁論は法廷(δικαστήρια; law-courts)で行われる弁論のことである。これに対して演示弁論は、公共の祭礼(public ceremony)の際に聴衆を前にして、賞賛や非難をする目的で行われる弁論のことである。有名な演示弁論の例としては葬送演説(ἐπιτάφιος [sc. λόγος]; epitaphios)がある。アテーナイでは前年に戦争で死んだ者たちのための葬礼(funeral ceremony)が毎年行われており、そこで彼らを賞賛するための演説が行われた。なお、議会弁論でも法廷弁論でもないものは演示弁論として扱われる。たとえばアンティポーンの『テトラロギア』は実際に法廷で演説するためのものではないので演示弁論とされる。また、アッティカの10人の弁論家には含まれないが、ゴルギアース(Γόργιας; Gorgias)の『ヘレネー頌』(Ἑλένης ἐγκώμιον, Helenae encomium)もやはり演示弁論とされる。

我々に今日伝えられているアッティカの10人の弁論家の作品のうちでは、法廷弁論が圧倒的に多い。議会弁論は比較的少なく、演示弁論はわずかである。法廷弁論は10人すべてにあるが、議会弁論はほぼアンドキデース、イソクラテース、デーモステネースに限られる。演示弁論のうち、有名なものは、ヒュペレイデースの葬送演説である(Hyp. 6)。

弁論の5つの部分

  1. 発想(εὕρεσις; inventio; invention)
  2. 配置(τάξις; dispositio; arrangement)
  3. 修辞(λέξις; elocutio)
  4. 記憶(μνήμη; memoria; memory)
  5. 表出(ὑπόκρισις; actio; delivery)

1, 発想

2, 配置

Arist. Rhet. 1414a30--1414b18(3.13)などによる。

  1. 序論(προοίμιον; exordium; introduction, proem)
  2. 陳述(διήγησις; narratio; narrative)
  3. 論証(πίστις; probatio; proof, argument)
  4. 結論(ἐπίλογος; peroratio; conclusion)

3, 修辞

  1. 高貴体(grave)
  2. 単純体(tenue)
  3. 中庸体(medium)

作品名

ギリシア語・ラテン語と英語(など)には確立された対応語があるが、日本語にはまだないといってよい。

裁判制度

おおむね紀元前4世紀のアテーナイの制度を解説する。

  1. 私訴(δίκη)
  2. 公訴(γραφή)

訴訟当事者(litigant)は次の2つに分かれる。

  1. 原告(διώκων; plaintiff)
  2. 被告(φεύγων; defendant)

私訴の場合でも公訴の場合でも区別なくこのように呼ばれるが、公のことに関する訴訟の場合、アレオパゴスや他の殺人事件を扱う訴訟の場合は訴えた方が告訴人(κατήγορος, κατηγορών)と呼ばれることがある。

訴訟当事者が自分で弁論を行うのが原則だが、他人を呼んで発言させていけないわけではなかった。元来は「一緒に発言する者」という意味の法律顧問(συνήγορος; advocatus; advocate, legal advisor)の助けを借りて裁判を行うこともあったとも考えられている。ただし金を払って人に発言させることは違法であった(cf. D. 59.14--15; 36.1)。

裁判員(δικαστής)は、私訴の場合200--300人、公訴の場合は500人であるが、重要な公訴はその単位をいくつか合わせて合同の裁判員団を構成した。裁判員は30歳以上の市民から成り、裁判当日の早朝に無作為に選ばれた。

訴訟当事者にはそれぞれの持ち時間が与えられ、水時計(κλεψύδρα; klepsydra; water-clock)で計られた。この水時計は大きなアンフォラであり、底の方に穴があいていて、弁論の開始とともにその栓が抜かれる。水がなくなったら弁論を終わりにしなければならない。私訴においては、弁論の途中で布告、法律、神託を読み上げたり、他の証言をさせたりする間は栓をして時間の計測を止めた。


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