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ヘクサメトロス

ダクテュロス・ヘクサメトロスはダクテュロス(δάκτυλος ; dactylus; dactyl; i.e. - u u )と呼ばれる脚(foot)またはメトロンが6回繰り返され、第6脚が終止形をもっている(catalectic)もののことをいう*1

ヘクサメトロス
- (- u u) - (- u u) - | (- u | u) - (- u_u) - (- u u) - - ||
- u u - u u - | u | u - u_u - u u - - ||

以下、誤解の恐れがない場合は上の図の下の方の表記を使う場合がある。

第3脚の長要素のあとか、縮約していない第3脚のビケプスの短音節2つの間に単語の切れ目が置かれることが多く、前者の切れ目のことを男性的カエスーラ(masculine caesura)、後者を女性的カエスーラ(feminine)と呼ぶ。女性的カエスーラの方は、- u(トロカイオス調脚)「だけ」を行頭から数えていくと3つ目の - u の後にあるので、「第3トロカイオス」のあとのカエスーラ(τομὴ κατὰ τρίτον τροχαῖον)とも呼ばれる。このどちらかに切れ目が置かれることが普通だが、まれにこの位置に切れ目が置かれないことがあり(『イーリアス』では約0.14%、『オデュッセイア』で約0.09%、ヘーシオドスで約0.22%)、この場合は第4脚の長要素のあとに単語の切れ目が置かれる。男性的カエスーラと女性的カエスーラの割合は 3:4 くらいである。

男性的カエスーラ
- u u - u u - | u u - u u - u u - - ||
女性的カエスーラ
- u u - u u - u | u - u u - u u - - ||
上のどちらも起こらない場合(第4脚の長要素のあと)
- u u - u u - u u - | u u - u u - - ||

第3脚の長要素のあとのカエスーラのことは、2分の5脚カエスーラ(πενθημιμερής [sc. τομή]; penthemimeris [sc. tome]; penthemimeral caesura)、第4脚の長要素のあとのカエスーラのことは2分の7脚カエスーラ(ἑφθημιμερής; hepthemimeris; hephthemimeral caesura)と呼ばれる。それぞれ次の行で覚えておくとよい。

男性的カエスーラ(Hom. Il. 1.1)
μῆνιν ἄειδε, θεά, | Πηληϊάδεω Ἀχιλῆος
女性的カエスーラ(Hom. Od. 1.1)
ἄνδρα μοι ἔννεπε, Μοῦσα, | πολύτροπον, ὃς μάλα πολλά
第4脚の長要素のあと(Hom. Il. 1.145)
ἤ' Αἴας ἤ' Ἰδομενεὺς | ἤ δῖος Ὀδυσσεύς

コーロン

ヘクサメトロスは「ダクテュロスが6脚」だと考えられているわけであるが、カエスーラの考察より、むしろ2つのコーロンからなっていると考えた方がよい。

hemiepes (D)
- u u - u u -
paroemiac
x - u u - u u - - , (u u -) - u u - u u - -

というコーロンは他の韻律にも現れるからである。したがって脚ではなくて、上のようなコーロンがヘクサメトロスの基本的な韻律の単位である。実際定型句はこれらのコーロンを埋めるように作られている。

ヘクサメトロスはしたがって次のように書ける。

ヘクサメトロス(2コーロン)
D | (- u | u) D - ||

韻律上の制限

初期叙事詩(ホメーロス、ヘーシオドス)

第5脚のビケプス
第5脚のビケプス(biceps)が縮約(contraction)する(i.e. - `u u' => - `-' )ことはまれで、これは 1/20 くらいの割合で起こる。この場合、縮約した音節はその行の最後の単語に属することがほとんどである(i.e. | - `-' - - || etc.)。
Hermann の法則(1805)*2
第4脚の短音節2つの間に単語の切れ目を置くことは避けられる(1/550 くらいの割合で例外がある)。
Gerhard の法則(1816)*3
第5脚の長要素の後に文章の切れ目が置かれることは非常にまれで、この位置から詩行の終わりまでの間(両端は含まない)に文章の切れ目が置かれることはない。
縮約したビケプス
  1. 3つの連続した長音節を含む単語は、縮約したビケプスを1つだけ含むのが普通である。すなわち、- `-' - や `-' - - は普通だが、`-' - `-' はまれである。
  2. 4つの連続した長音節を含む単語は、詩行の終わりに置かれるのが普通である( - `-' - - || )。
  3. 前半のコーロン(第1, 2脚のビケプス)では縮約は普通であるが、後半のコーロン(第4, 5脚のビケプス)ではまれである(第4脚のビケプスで 30% 程度、第5脚のビケプスでは 5% 程度)。第3脚のビケプスでは 20% 程度である。

初期叙事詩を模倣した作品(カッリマコスやノンノス)

以下では、カッリマコスやノンノスに代表される、ヘレニズム時代以降の作品について述べるが、以下の点に注意する必要がある。

  1. カッリマコスには適用されるが、ノンノスについては適用されない、あるいはその逆の場合がある。
  2. カッリマコスやノンノス以外の作品についても適用される場合と適用されない場合がある。
カエスーラ
すべての詩行が女性的カエスーラか、やや頻度は少なくなるが男性的カエスーラをもち、男性的カエスーラをもっている場合は第4脚の長要素の後か、縮約していない第4脚のビケプスの後、またはその両方にカエスーラをもつ。特に第4脚のビケプスの後のカエスーラは牧歌的ディアイレシス(bucolic diaeresis)または牧歌的カエスーラ(bucolic caesura)と呼ばれる。ホメーロスにおいても、縮約していない第4脚のビケプスの後にカエスーラをもつ場合が多く、47% 程度ある*4
σπονδειάζων
ダクテュロスである第4脚に続いて4音節語が置かれていることをスポンデイアッゾーン(σπονδειάζων)と呼ぶ。
Näke の法則(1835)*5
第4脚のビケプスが縮約している場合、そのあとに単語末を置くことは避けられる。すなわち、縮約した第4脚のビケプスと次の要素の間には架橋がある。これはカッリマコスには例外なく認められる。ニーカンドロスには1、アラートスには30の例外が認められる。

- `-'_- u u - - ||

Näke の法則は Hom. Il. 1.2 の例で覚えておくとよい。

οὐλομένην, ἣ μυρί' Ἀχαιοῖς |* ἄλγε' ἔθηκε, ||

Hilberg の法則(1879)*6
第2脚のビケプスが長音節になっている場合、そのあとに単語末を置くことは避けられる。

|| - u u - `-'_- . . .

Wernicke の法則(1819)*7
縮約した第4脚のビケプスの後に単語末が置かれる場合、その単語末の音節はもともと長く(long by nature)、位置によって長くなった(long by position)音節にはならない。Wernicke の法則は Hes. Th. 135 の例で覚えておくとよい。

. . . Θέμιν τε* Μνημοσύνην τε. ||

Meyer の第1法則(1884)*8
第2脚が x - u | や x - (- u u) | で終わることは避けられる。Meyer の第1法則は Hom. Il. 1.1 の例で覚えておくとよい。

μῆνιν | ἄειδε |*

Meyer の第2法則(1884)*9
カエスーラの前に | u - | のリズムをもつ単語を置くことは避けられる。これはノンノスには適用されない。これも Hom. Il. 1.1 の例で覚えておくとよい。

μῆνιν ἄειδε, | θεά |*

Meyer の第3法則(1884)*10
同じ詩行の第3脚の長要素のあとと第5脚の長要素のあとの両方に単語の切れ目を置くことは避けられる。

. . . `-' | u u - u u `-' | u u - - ||*

これも Hom. Il. 1.1 の例で覚えておくとよい。

μῆνιν ἄειδε, θεά, | Πηληϊάδεω |*

Tiedke & Meyer の法則(1873 & 1884)*11
第4脚の長要素のあとと第5脚の長要素のあとの両方に単語末を置くことは避けられる。

. . . `-' | u u `-' | u u - - ||*

これは Hom. Il. 1.3 の例で覚えておくとよい。

πολλὰς δ' ἰφθίμους ψυχὰς | Ἄϊδι |* προΐαψεν ||

まとめ

Hom. Il. 1.1によって Meyer の第1--3法則が覚えられる。

μῆνιν | ἄειδε, [M1] |* θεά, [M2] |* Πηληϊάδεω [M3] |* Ἀχιλῆος ||

Hom. Il. 1.2によって Hilberg の法則と Näke の法則が覚えられる。

οὐλομένην, ἣ [H] |* μυρί' Ἀχαιοῖς [N] |* ἄλγε' ἔθηκε, ||

Hom. Il. 1.3によって Tiedke & Meyer の法則が覚えられる。

πολλὰς δ' ἰφθίμους ψυχὰς | Ἄϊδι [T--M] |* προΐαψεν ||

Wernicke の法則は Hes. Th. 135 の例で覚えておくとよい。

. . . Θέμιν τε* Μνημοσύνην τε. ||

韻律上の長音節化

ヘクサメトロスにおいては、u u u や u - - u というリズムをもつ単語を用いることができないので、例えばそれぞれ - u u や - - - u というリズムに変更される。この現象を韻律上の長音節化(παραύξησις [< παραύξω]; metrical lengthening)という。

通常形韻律上の長音節化
ὄνομαu u uοὔνομα- u u
Ὀλύμποιοu - - uΟὐλύμποιο- - - u

*1 第6脚は終止形ではないという考え方もある(cf. OCD [3] s.v. metre, Greek)。
*2 G. Hermann (ed.), Orphica (Lipsiae [Leipzig], 1805), 692: `Sed in magna illa caesurarum varietate, quam habet versus heroicus, una praecipue incisio est, quae quia vim et robur numerorum debilitat, a melioribus poetis improbata est. Eam dico, quae habet trochaeum in pede quarto'.
*3 E. Gerhard, Lectiones Apollonianae (Lipsiae [Leipzig], 1816), 223--224: `Magis etiam interpunctio vitabatur post tempus XIX., quoniam et in media thesi erat et fini propinquior.'
*4 M.L. West, Greek Metre (Oxford, 1982), 154.
*5 A.F. Näke, `Callimachi Hecale IV', RhM 3 (1835), 509--531, apud 516: `Spondei cum caesura in quarto pede tam rara apud Callimachum exempla sunt'. = F.T. Welcker (ed.), Augusti Fernandi Naekii opuscula, ii (Bonnae [Bonn], 1845), 104.
*6 I. Hilberg, Das Princip der Silbenwaegung (Wien, 1879), 129: `12. Gesetze ist der zweite Fuss des Hexameters ein Spondeus, so darf die Senkung desselben durch eine lange Endsilbe gebildet werden'; 263: `'.
*7 F.A. Wernicke (ed.), Τρυφιοδώρου Ἅλωσις Ἰλίου (Lipsiae [Leipzig], 1819), 173: `ut vitiosa longa syllaba in thesi quartae sedis ex concursu duarum quae non in uno eodemque vocabulo sunt, consonarum enascens more doctorum poetarum evitetur.'; B. Giseke, Homerische Forschungen (Leipzig, 1864), 145.
*8 W. Meyer, `Zur Geschichte des griechischen und des lateinischen Hexameters', SBA (1884), 979--1089, apud 980: `1. der Trochäns und der Daktylus im zweiten Fusse darf nicht durch den Schluss eines drei- oder mehrsilbigen.'
*9 Meyer, 980: `im 1. Fusse beginnenden Wortes gebildet werden: 2. die männliche Caesur im dritten Fusse darf nicht durch ein zweisilbiges jambisches Wort gebildet werden'.'
*10 Meyer, 980: `wenn die dritte Hebung Wortschluss und männliche Caesur bildet, so darf nicht auch die fünfte Hebung Wortschluss mit männlicher Caesur bilden.'
*11 H. Tiedke, Quaestionum Nonnianarum specimen (diss. Berolini [Berlin], 1873), 15: `De caesura semiseptenaria plura dicenda sunt. Qua ubicumque Nonnus usus est, diligenter cavit, ne eiusdem generis alia in pede proximo sequeretur'; Meyer, 987: `1. Ziemlich auffallend ist die Feinheit, dass auch nach weiblicher Caesur im 3. Fusse die Aufeinanderfolge von 2 betonten Wortschlüssen in der 4. und 5. Hebung gemieden wurde. . . . Richtiger hätte Tiedke gesagt, Nonnus vermied es, der männliche Caesur im 5. Fusse im 4. Fusse männliche Caesur vorangehen zu lassen.'

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