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音律(Prosody)

音節の長短を決定するための規則を音律(prosody)という。音律を考える際に音節の長さと母音の長さを区別することは重要である。すなわち母音が短くても音節としては長いことがあるので注意する必要がある。

音節の区切り方

子音については次のことに注意する必要がある。

なお、韻律以外の場合とでは音節の区切り方・長短が異なる場合があるので注意する必要がある。以下にその例を挙げる。

音律の公式

音律の一般的な公式は次の通りである。

音節の長短(1)
その音節が閉音節であるか、その音節が長母音または二重母音を含んでいれば長音節となり、そうでなければ短音節となる。

あるいは次のように言い換えることもできる。

音節の長短(2)
短音節となるのは、その音節に含まれる母音が短母音であり、かつその音節が開音節の場合である。

ここで、閉音節(closed syllable)とは、子音に終わっている音節のことをいい、開音節(open syllable)とは、母音に終わっている音節のことをいう。

例外

音律の概要は以上の通りであるが、実際にはさまざまな例外がある。これらは次のように分類される。

  1. 母音が隣り合ったとき
    1. elision
    2. (epic) correption
    3. synecphonesis
    4. semi-vowel
    5. hiatus
  2. 子音の扱い
    1. ϝ
    2. 語頭の λ, μ, ν, ῥ, σ, ϝ の延長(重複)
    3. 語末の ν, ρ, ς
    4. 閉鎖音+流音または鼻音
    5. その他

母音が隣り合ったとき

elision
母音で始まる単語によって、前の単語末の短母音が消失する現象をいう。
correption
(特に語末の)長母音、二重母音が、別の母音の前で短母音として扱われる現象をいう。これは初期叙事詩、エレゲイアではよくおこる現象だが、後代の叙事詩、エレゲイア、抒情詩中でも起こることがある。また、たとえば叙事詩のテキストに見られるような Τρωΐα -> Τροΐα も、すでに単語の綴りが異なっているものの、現象としては correption と考えられる。
synecphonesis
2つ以上の母音が1つの長い音節として発音される現象をいう。これは元の最初の母音が ε の場合に特に多い。語末の長母音または二重母音、elision しない単音節語(ὁ, τό など)と、次の単語の語頭の母音が1つの長い音節として発音されることもある。これは次の場合に多い。
  1. 最初の単語が単音節語(特に καί, ἤ, δή, μή, ὦ などの接続詞)や ἐπεί, ἐγώ などの場合。
  2. 次の単語が ἐστι の変化形の場合(ただし enclitic の場合に限る)。
semi-vowel
子音と、別の母音に挟まれた ι [= y], υ [= w] は、子音として扱われることがある。
hiatus
どちらの母音も本来の音価を保っていることをいう。これは普通でない現象だが、叙事詩やエレゲイアにおいては、詩行の特定の位置で起こることがある。

子音の扱い

ϝ
叙事詩、特に定型句においては古いギリシア語の形を保持していて、綴りの上では書かれない子音 ϝ を考えなければならないことがある。e.g.) ἐμὸν ἔπος = e-mon-(w)e-po-s.
語頭の λ, μ, ν, ῥ, σ, ϝ の延長(重複)
叙事詩においては、語頭の λ, μ, ν, ῥ, σ, ϝ は長く発音され、前の音節を長くすることがある。これは、もともと λ [= sl- ], μ [= sm- ], ν [= sn- ], ῥ [= sr-/wr-], ϝ [= sw- ] のように2重子音だったからだと考えられている。
語末の ν, ρ, ς
語末の ν, ρ, ς に、語頭に母音がある単語が続く場合、叙事詩、エレゲイアなどにおいては、その ν, ρ, ς は語頭の母音と同じ音節には属さず、その前の音節に属してその音節を長くする働きをすることがある。
閉鎖音+流音または鼻音
閉鎖音(π, β, φ; τ, δ, θ; κ, γ, χ)+流音(λ, ρ)または鼻音(μ, ν)は、あたかも1子音であるかのように、同時に発音される、つまり、この閉鎖音が前の音節を長くしないことがある。e.g.) τέκνα = te-kna. 有声閉鎖音(β, δ, γ)+鼻音(μ, ν)の組み合わせの場合は他の場合と比べて起こりにくい。初期の詩ではあまり起こらない現象だが、アッティカ方言ではよく起こり、したがって喜劇ではよく起こる(Attic correption)。
その他
σκ, ζ (= zd), πτ, κτ, μν, σλ、子音+半母音の ι は、前の例のように、あたかも1子音のように、同時に発音されることがある。

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