[[eLearning/Greek/Bacchylides]]

*バッキュリデースの韻律 [#k0a9b8b2]

>Last updated: 2008/09/17 by MATSUURA Takashi
>Last updated: 2008/09/18 by MATSUURA Takashi

>Maehler, '''Bacchylidis carmina''', XXII--XXXVIII; Maehler, '''Selection''', 14--17 など参照。

韻律(の表記方法)について一般的には

-eLearning/Metre

を参照のこと。

バッキュリデースの詩は、3連構造(triadic)か、単連構造(monostrophic)でできている。3連構造は、

+strophe
+antistrophe
+epode

から成り、strophe と antistrophe は韻律的に同一で、epode はそれとは異なる。すなわち AAB という組み合わせになり、この単位が何回か繰り返されて AAB AAB AAB . . . となる。

**凡例 [#y2a98fff]

-| は単語の終わり(diaeresis)を表す。
-|| は period の終わり(単語の終わりでもある)を表す。
-||| は strophe の終わりを表す。
-例えば u `u' - は、2つ目の u について今言及していることを表す。
-_ は、その箇所が単語の終わりと一致しない、つまり、その箇所は1つの単語がまたいでいることを表す(bridge)。

**Dactylo-Epitrite [#xbbbf834]

dactylo-epitrite は以下の metra の組み合わせでできている。それぞれをつなぎあわせる際に anceps interpositum (Lat.); link anceps (Engl.) がつく場合とつかない場合がある。anceps  interpositum は x と表される。anceps interpositum はたいていの場合は - になり、u になることは少ない。なお、anceps interpositum は dactylo-epitrite を説明するのに便利な概念であるが、ギリシアの詩人がもともともっていた概念ではないということに注意しておく必要がある((cf. M.L. West, '''Greek Metre''' (Oxford, 1982), 70.))。

:D|- u u - u u -
:e|- u -

D は dactylic hemiepes と呼ばれることがある。e - (= - u - -)は epitrite と呼ばれることがある。dactylo-epitrite という名前はこれらからきている。

dactylo-epitrite は D と e を自在に組み合わせることによってできているが、Zuntz によれば、strophe の終わりは e になる((P. Maas, H. Lloyd-Jones (tr.), '''Greek Metre''' (Oxford, 1962), p. 42.))。

以下は Maas による metra の拡大である。技術的な都合で、本来 Maas が「d の2乗」のような表記をしているものを、ここでは d [2] と表記している。

:E| - u - x - u - 
:d [1]| - u u -
:d [2]|u u -

E は、現在は上のような公式で書かれることが多いが、もともと Maas は

> e - e = E

といっている((Maas, '''Metre''', p. 41.))。

***anceps interpositum breve [#icfcdd89]

バッキュリデース(とピンダロス)の anceps interpositum について、詳しくは次のようになる。

-バッキュリデースでは、anceps interpositum breve(短い anceps;short anceps)は対応する傾向がある。anceps interpositum breve がある1つの triad に存在すれば、他の triad の対応する位置でも anceps が短くなることが多い。ピンダロスにも同じ傾向が認められるが、バッキュリデースほどではない。
-ピンダロスでは、最初の triad に anceps interpositum breve が出てこなければ(すなわち - ならば)、以後の triad で、その - に対応する位置に u が出現するのはまれである。バッキュリデースの場合は、最初の triad が欠けている場合が多いのではっきりしたことはいえないが、もしそのような傾向が存在するとしたら、ピンダロスほどではないといえる。

Barrett は次のことを発見した((W.S. Barrett, `Dactylo-Epitrites in Bacchylides', '''Hermes''' 84 (1956), 249.))。

+バッキュリデースにおいて、anceps interpositum breve(短い anceps)が許される位置は、. . . `u' e (x) | が多く、他はまれである。ただし、B. 3; 13 は例外。ピンダロスにはこの傾向はない。
+バッキュリデースは | (x) e `u' の位置に anceps interpositum breve を置くことを避けている。

***Lex Maasiana [#t462441e]

Maas の法則は、一般的には次のようになる((Maas, '''Metre''', §48.))。

> x - u - x というリズムを含む場合、行の中間の caesura の箇所を除いては、anceps interpositum longum(長い anceps interpositum)の後に単語の終わりがくることはない。

これは、dactylo-epitrite の場合に限らず成り立つが、バッキュリデースの dactylo-epitrite の場合、詳しくは次のようになる((cf. P. Maas, `Kolometrie in den Daktyloepitriten des Bakchylides', [['''Philologus''' 63 (1904):http://www.archive.org/details/philologus63deutuoft]], 297--309.))。

-period の最初にある e の後の長い anceps interpositum の後には単語の終わりはこない。
>|| (x) e -_- . . .

-period の最後にある e の前の長い anceps interpositum の後には単語の終わりはこない。
>. . . - -_e (x) ||

***Lex Maas--Barrettiana [#r79f76a5]

Barrett は Maas の法則を承けて、「バッキュリデースの」dactylo-epitrite における法則を詳しく検討した((Barrett, 251--253.))。

Barrett の論点は主に次の2つである。
+anceps interpositum の位置によって、Maas の法則はすべて同じくらいの「強度」をもっているわけではない。すなわち、長い anceps の位置によって、その後に単語の終わりが全くこない場合と、ある程度はくる場合がある。
+anceps interpositum longum(長い anceps)の場合だけでなく、anceps interpositum breve(短い anceps)の場合にも成り立つ。

anceps interpositum の位置と、長さによって場合分けをすると次のようになる((cf. Maehler, '''Bacchylidis carmina''', XXIX--XXX.))。
+. . . x || の場合
++ . . . - | e x || <- 例がない
++ . . . u | e x || <- 例がない
+. . . e || の場合
++. . . - | e || <- いくつか例がある
++. . . u | e || <- ある程度例がある
+|| x e . . . の場合
++|| x e - | . . . <- ある程度例がある
++|| x e u | . . . <- 例がないといってよい
+|| e x . . . の場合
++|| e - | . . . <- ごくわずかな例がある
++|| e u | . . . <- 例がない
+ | (x) e x e (x) | の場合、中央の anceps の後に決して単語の終わりはこない。

すなわち、

-. . . u | e ||
-|| x e - | . . .

は比較的起こりやすい。しかし全体との割合、すなわち「起こる場合/(起こる場合+起こらない場合)」は多くても1/4程度であるから、いずれも「例外」として扱ってよい。

Barrett はこれらを総括して、バッキュリデースは、period の終わりと始まりにおいては、e x という要素が、単語の終わりによって文脈上分けられるのを避けている、といっている((Barrett, 252.))。



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