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バッキュリデースの韻律

Last updated: 2008/09/17 by MATSUURA Takashi

Maehler, Bacchylidis carmina, XXII--XXXVIII; Maehler, Selection, 14--17 など参照。

バッキュリデースの詩は、3連構造(triadic)か、単連構造(monostrophic)でできている。3連構造は、

  1. strophe
  2. antistrophe
  3. epode

から成り、strophe と antistrophe は韻律的に同一で、epode はそれとは異なる。すなわち AAB という組み合わせになり、この単位が何回か繰り返されて AAB AAB AAB . . . となる。

凡例

Dactylo-Epitrite

dactylo-epitrite は以下の metra の組み合わせでできている。それぞれをつなぎあわせる際に anceps interpositum (Lat.); link anceps (Engl.) がつく場合とつかない場合がある。anceps interpositum は x と表される。anceps interpositum はたいていの場合は - になり、u になることは少ない。なお、anceps interpositum は dactylo-epitrite を説明するのに便利な概念であるが、ギリシアの詩人がもともともっていた概念ではないということに注意しておく必要がある*1

D
- u u - u u -
e
- u -

D は dactylic hemiepes と呼ばれることがある。e - (= - u - -)は epitrite と呼ばれることがある。dactylo-epitrite という名前はこれらからきている。

dactylo-epitrite は D と e を自在に組み合わせることによってできているが、Zuntz によれば、strophe の終わりは e になる*2

以下は Maas による metra の拡大である。技術的な都合で、本来 Maas が「d の2乗」のような表記をしているものを、ここでは d [2] と表記している。

E
- u - x - u -
d [1]
- u u -
d [2]
u u -

E は、現在は上のような公式で書かれることが多いが、もともと Maas は

e - e = E

といっている*3

anceps interpositum breve

バッキュリデース(とピンダロス)の anceps interpositum について、詳しくは次のようになる。

Barrett は次のことを発見した*4

  1. バッキュリデースにおいて、anceps interpositum breve(短い anceps)が許される位置は、. . . `u' e (x) | が多く、他はまれである。ただし、B. 3; 13 は例外。ピンダロスにはこの傾向はない。
  2. バッキュリデースは | (x) e `u' の位置に anceps interpositum breve を置くことを避けている。

Lex Maasiana

Maas の法則は、一般的には次のようになる*5

x - u - x というリズムを含む場合、行の中間の caesura の箇所を除いては、anceps interpositum longum(長い anceps interpositum)の後に単語の終わりがくることはない。

これは、dactylo-epitrite の場合に限らず成り立つが、バッキュリデースの dactylo-epitrite の場合、詳しくは次のようになる*6

Lex Maas--Barrettiana

Barrett は Maas の法則を承けて、「バッキュリデースの」dactylo-epitrite における法則を詳しく検討した*7

Barrett の論点は主に次の2つである。

  1. anceps interpositum の位置によって、Maas の法則はすべて同じくらいの「強度」をもっているわけではない。すなわち、長い anceps の位置によって、その後に単語の終わりが全くこない場合と、ある程度はくる場合がある。
  2. anceps interpositum longum(長い anceps)の場合だけでなく、anceps interpositum breve(短い anceps)の場合にも成り立つ。

anceps interpositum の位置と、長さによって場合分けをすると次のようになる*8

  1. . . . x || の場合
    1. . . . - | e x || <- 例がない
    2. . . . u | e x || <- 例がない
  2. . . . e || の場合
    1. . . . - | e || <- いくつか例がある
    2. . . . u | e || <- ある程度例がある
  3. || x e . . . の場合
    1. || x e - | . . . <- ある程度例がある
    2. || x e u | . . . <- 例がないといってよい
  4. || e x . . . の場合
    1. || e - | . . . <- ごくわずかな例がある
    2. || e u | . . . <- 例がない
  5. | (x) e x e (x) | の場合、中央の anceps の後に決して単語の終わりはこない。

すなわち、

は比較的起こりやすい。しかし全体との割合、すなわち「起こる場合/(起こる場合+起こらない場合)」は多くても1/4程度であるから、いずれも「例外」として扱ってよい。

Barrett はこれらを総括して、バッキュリデースは、period の終わりと始まりにおいては、e x という要素が、単語の終わりによって文脈上分けられるのを避けている、といっている*9


*1 cf. M.L. West, Greek Metre (Oxford, 1982), 70.
*2 P. Maas, H. Lloyd-Jones (tr.), Greek Metre (Oxford, 1962), p. 42.
*3 Maas, Metre, p. 41.
*4 W.S. Barrett, `Dactylo-Epitrites in Bacchylides', Hermes 84 (1956), 249.
*5 Maas, Metre, §48.
*6 cf. P. Maas, `Kolometrie in den Daktyloepitriten des Bakchylides', Philologus 63 (1904), 297--309.
*7 Barrett, 251--253.
*8 cf. Maehler, Bacchylidis carmina, XXIX--XXX.
*9 Barrett, 252.

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