アッティカの悲劇、喜劇は伝承されているものも多く、またよく読まれるものでもあるので、別の項目として解説する。
劇のテキストは音楽と韻律の性質によって次の3つに分けられる。
朗読と叙唱の部分は、おおまかにいって単詩行型か、同じような韻律要素の繰り返し、例えばイアンボスやトロカイオスが延々と続く韻律でできており、歌唱の部分はストロペー型でできている。
アリストパネースにおいては、イアンボス調メトロンやトロカイオス調メトロンが10--60程度続き、最後が韻律終止(catalectic)になっている部分があり、息詰まり(πνίγη)と呼ばれる。
劇の抒情詩の部分は AAAA . . . や AAB, AAB, AAB . . . などではなく、AA BB CC . . . という構造になっている。AA BB CC D のように、最後に対応するストロペーをもたないストロペーが置かれることもあり、このストロペーのことをエポード(ἐπῷδή, epoide; epode)と呼ぶ。Z AA BB CC . . . や AA BB Y CC のように、前や中にエポードのように対応するストロペーをもたないストロペーが置かれることもあり、これらはそれぞれ序歌(ἡ προῳδός; proode)、中間歌(ἡ μεσῳδός; mesode)と呼ばれる。このようなストロペー対を形成しない(astrophic)ストロペーは、独唱歌(monody, solo)に多い。ストロペーとアンティストロペーが会話の部分によって隔てられることは、悲劇ではたまにあり、喜劇ではよくある。
悲劇の抒情詩の韻律はドーリス風がもとになっているが、ドーリス風に限らず、イオーニアー風やアイオリス風の様々な種類の韻律要素を組み合わせて作られている。
ドクミオス(δόχμιος; dochmius; dochmiac)は悲劇に特徴的な韻律である。
すべての長要素は分解を起こしうるので、全部で32種類の組み合わせが考えられるが、実際によく使われるものは限られている。
我々は、伝承されているテキストなどの制約からギリシアの韻律を特定の場や感情に直接結びつけて考えることは困難であるが、ドクミオスに関しては、使われている箇所が悲劇に限られており、多くの場合感情的な場面に使われていることから、感情的な場面に使われる韻律であると理解することができる。