u - という長短の組み合わせのことをイアンボス(ἴαμβος; iambus [OLD s.v. 1]; iamb)といい、x - u - という韻律単位(μέτρον, metron; metrum; meter)のことをイアンベイオン(ἰαμβεῖον [sc. μέτρον]; iambeus; iambic meter)という。イアンベイオンが3つ組合わされたものがイアンボス・トリメトロス(ἴαμβος τρίμετρος; iambus [OLD s.v. 2]; iambic trimeter)である。悲劇のせりふの大部分は、1行ごとに(κατὰ στίχον; stichic)イアンボス・トリメトロスが繰り返される形をとる。
イアンボス・トリメトロスにおいては、行の中で単語の終わりがよくくる位置があり、その位置のことをカエスーラ(caesura)という。カエスーラは第5音節の後にくることが多く、その位置にカエスーラがない場合は第7音節の後にくる。
3つ目の anceps(第9音節)には韻律上の制限が加わり、これをPorsonの法則(Lex Porsoniana; Porson's Law)という。これは次のようなものである。
上の i, ii は対偶になっていることがわかれば、どちらか一方を覚えるだけでよい。
Porson の法則を図示すれば次のようになる。なお、例えば `-' は、「この長音節に注目すべき」を表す。
表現方法1の場合は、3つ目の anceps とその次の音節の間に、あたかも橋が渡されているようになっていることから、Porson の橋(Porson's Bridge)ということもある。
今までみてきたイアンボス・トリメトロスは1行が12音節から成っていたが、実際には、そのうちの長音節が短音節2つで置き換えられる場合があり、この現象を分解(resolution)と呼ぶ。分解が起こりやすいのは(分解する前の)第2, 4, 6, 8音節(長音節)と第1音節(anceps)である。固有名詞の場合は(韻律に合わせるのが難しいので)第5, 9音節(anceps)が分解されることがあり、もともと短音節である第3, 7音節が短音節2つに分解されることもある。
なお、エウリーピデースの場合、劇の年代が下るにつれて分解の頻度が高くなるので、これを用いて上演時期が不明な劇の年代を推測することが行われている。