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Metre(韻律)†
Last updated: 2008/12/18 by MATSUURA Takashi
- 注意
- このページは、韻律を初めて学習する人のためのものである。したがって、次のものを読む準備段階として考えるとよい。
- 韻文の注釈書の序文に書かれている韻律の項目
- 韻律に関する(現代の)文献
- 韻律理論に初めて触れる人のために、できるだけ用語を日本語で表したが、それらの多くは新たに訳したものであり、一般的な訳語ではない。もっとも安全なのは、英語(に輸入された)の用語を使うことである。
- ここで挙げられているラテン語やギリシア語の用語は、古代の韻律の文献を読む際に役立つこともあるが、誤解を生じることもある。それは以下の理由によるものである。
- 古代に使われていなかった用語もある。
- 古代には別の意味で使われていた用語もある。
- 字下げがされて引用文となっている部分は、「注意」や「細かな解説」を表す。
特定のリズムによって作られる文を韻文といい、そのリズム、あるいはそれを形成する規則を韻律(metre)という。
ギリシア語においては、まず紀元前8--4世紀に音節の長短による韻律が導入され、紀元後4--6世紀にアクセント(語の強弱)による韻律が導入された。ここでは、音節の長短による韻律について解説する。
ラテン語の韻律は、基本的にはギリシア語から輸入したものであるから、ここでは別に解説することはしない。
韻律に関する記号については次のページを参照のこと。
基本概念†
韻律においては様々な専門用語が使われ、それらはしばしば意味の広がりをもっていたり、互いに重なり合っていたり、大体同じ意味であるがそれらの微妙な差異が重要だったりすることがあるので、基本概念をきちんと押さえておくことが重要である。
先に述べたように古典ギリシア語・ラテン語の韻律は音節(συλλαβή; syllaba; syllable)の長さ(quantity)によっている。音節は長さによって長音節(longa [sc. syllaba])と短音節(brevis [sc. syllaba])の2種類に区別される。ある音節が長音節か短音節かを決定するための規則を(狭義の)音律(προσῳδία, prosody)という。
一般に「音律」はここでの音律より広い意味をもっており、母音や音節の長さ、気息の有無、アクセントの違いを表しうる。
音律は必ずしも一定ではない。例えば、πατρός は、悲劇などの場合は u u と数えられ、叙事詩などの場合は - u と数えられる。長さが一意に定まらない音節のことを不定長音節(anceps [sc. syllaba])という。
不定長音節は、以下で述べる不定長要素と違って、それほど有用なものではないので、ここでは原則的に使わないことにする。
音節の長さを調べることを音節分析(μερισμός; scansio; scansion)という。
脚や歩格(以下で述べる)を調べることも scansion と呼ばれる。このページではそれを区別して韻律分析(scansion)と呼ぶ。
韻律上の区切り†
韻律を分析する上で、韻文を韻律上意味のあるまとまりに区切ることは重要である。以下では韻律上のさまざまなまとまりについて説明するが、それぞれの区別については論理的でなく、慣用にもとづく場合が多いので注意する必要がある。
叙事詩や劇(悲劇・喜劇)のせりふの部分は1行単位で韻律上のまとまりが繰り返される。これを(詩)行(στίχος; versus; verse)と呼ぶ。これに対して、例えば劇においてコロス(合唱隊)が「歌う」部分は、それらより長いものが1つのまとまりになっている(テキスト上は「字下げ」をすることによってそれが示される)。このまとまりをピリオド(περίοδος; periodus; period)という。詩行とピリオドの区別は慣用的なものである。ここでは単に「ピリオド」といった場合、詩行とピリオドの両方を表すこととする。
文(sentense)は文法上、意味上のまとまりであるのに対して、ピリオドは韻律上のまとまりである。
ストロペーあるいはストロフェー(στροφή, strophe)は、1つ以上のピリオドから成り、同じ形が繰り返されるものをいう。ストロペー同士が韻律的に一致していることを韻律対応(responsio; responsion)という。
韻律対応しているストロペーが1対の場合、後の方はアンティストロペー(ἀντιστροφή; antistrophe)と呼ばれる。
コーロン(κῶλον, colon)は12音節以下の韻律上のまとまりである。普通はピリオドの分割されたものがコーロンになるが、(短い)ピリオドや詩行とコーロンが一致する場合もある。
ある種の韻律においては、1つのピリオドが、同じか、または同等の韻律単位の繰り返しでできていることがあり、その韻律単位をメトロンまたは歩格(μέτρον, metron; metrum; meter)という。メトロンは3--6音節の韻律上のまとまりであるとされる。1つのピリオドが同じメトロン2つから成っている場合ディメトロスまたは2歩格(δίμετρος; dimetrus; dimeter)、3つから成っている場合トリメトロスまたは3歩格(τρίμετρος; trimetrus; trimeter)、4つから成っている場合テトラメトロスまたは4歩格(τετράμετρος; tetrametrus; tetrameter)などという。
韻律上、単語の切れ目がよく置かれる位置がある場合がある。その切れ目がメトロン間にある場合、それをディアイレシスまたは歩格間休止(διαίρεσις; diaeresis)と呼び、メトロン中にある場合、それをカエスーラまたは歩格中休止(caesura)と呼ぶ。
コーロンとメトロンは、ピリオドを構成する韻律単位という点で同じである。
脚(πούς; pes; foot)もまたピリオドを構成する韻律単位であるが、ある種の韻律においては脚=メトロンとなる。イアンボス、トロカイオス、アナパイストスなどの韻律においては2脚=1メトロンとなり、メトロンで言及するよりも脚で言及した方がわかりやすい場合がある。ここでは、脚で言及しなければ意味がはっきりしない場合には脚で言及し、そうでない場合にはメトロンで言及する。
2脚=1メトロンとなる場合、そのまとまりは古代においてはシュッジュギアー(συζυγία, syzygia; syzygy)と呼ばれていた。これは「くびきにつながれた1対」の意味である。この用語を使う必然性はないので、ここでは用いない。
以上の関係を図示すれば次のようになる。なお、詩行やピリオドの上位区分であるストロペーがいつも存在するわけではない。
音節<(脚、メトロン、コーロン)<(詩行、ピリオド)<ストロペー
ピリオドの定義†
以上のことからわかるように韻律上の区切りでもっとも重要なのはピリオドであるから、ピリオドがどのように構成されるかを知る必要がある。以下は主に West, Metre, 4--5 による。
- ピリオドの切れ目は単語の途中に置かれない。
- ピリオドの中に含まれる単語は、単語の切れ目や文法上の切れ目を無視して、あたかも1つのピリオドが1単語であるかのようにして、音節が分けられる。この状態をシュナペイア(συνάφεια, synapheia; synaphia)の状態にあるという。
- 逆に、ピリオド同士はシュナペイアの状態にない。したがって、ピリオドの最後の音節の韻律上の長さは、次のピリオドの最初の単語に左右されずに決定される。
- ピリオドの最後の韻律要素は長音節でも短音節でもよいことがある。長音節が期待される韻律要素を短音節が占めている場合、長要素中に短音節がある(brevis in longo, i.e. syllaba brevis in elemento longo)という。この場合に不足する長さは、休止によって補われる。
古代においてはシュナペイアは、例えばアナパイストスのように「同じ脚がずっと続くこと」を表した。現在の意味とは違うので注意する必要がある。
用語(未分類)†
- ἀδιάφορος;
- 韻律要素(elementum, element)
- 韻律上の位置(positio, position)
- 1行ごと(κατὰ στίχον; stichic)
- 母音衝突(σύγκρουσις, χασμωδία [< χασμωδέω]; hiatus)
- 分割音節(λύσις [< λύω]; resolution)
- 終止形をもつ(καταληκτικός [< καταλήγω]; catalecticus; catalectic)
- colometry
- brevis in longo (i.e. syllaba brevis in elemento longo)
- 韻律上の長音節化(παραύξησις [< παραύξω]; metrical lengthening)
- 同じ脚がずっと続くこと。現在使う synapheia の意味とは違う。
- συνίζησις, synizesis
- τόνος, measure, meter
- ἀπλοδοσις (responding strophe) Maas p.5 n.
- συζυγία = metron Maas p.5 n.
- χώρα (position of a foot in a verse [LSJ s.v. I.3.b]) Maas p.7
- στοιχεῖα (element) West p.18 n.
個別韻律解説†
参考文献†
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