eLearning/Metre

基本用語

韻律においては様々な専門用語が使われ、それらはしばしば意味の広がりをもっていたり、互いに重なり合っていたり、大体同じ意味であるがそれらの微妙な差異が重要だったりすることがあるので、基本概念をきちんと押さえておくことが重要である。

音節

先に述べたように古典ギリシア語・ラテン語の韻律は音節(συλλαβή; syllaba; syllable)の長さ(quantity)によっている。音節は長さによって長音節(longa [sc. syllaba])と短音節(brevis)の2種類に区別される。ある音節が長音節か短音節かを決定するための規則を(狭義の)音律(προσῳδία; prosody)という。

一般に「音律」はここでの音律より広い意味をもっており、母音や音節の長さ、気息の有無、アクセントの違いを表しうる。

音律は必ずしも一定ではない。例えば、Ἄρης は普通 u - であるが、- - とされることもある。πατρός は、悲劇などの場合は u u とされ、叙事詩などの場合は - u とされる。長さが一意に定まらない音節のことを不定長音節(κοινή [sc. συλλαβή]; anceps [sc. syllaba])という。

不定長音節という概念は、以下で述べる不定長要素と違って、それほど有用なものではないので、ここでは原則的に使わないことにする。

音節の長さを調べることを音節分析(μερισμός; scansio; scansion)という。

脚や歩格(以下で述べる)を調べることも scansion と呼ばれる。ここではそれを区別して韻律分析(scansion)と呼ぶ。

音律については後で詳しく扱う。

韻律上の区切り

韻律を分析する上で、韻文を韻律上意味のあるまとまりに区切ることは重要である。以下では韻律上のさまざまなまとまり(ここでは韻律単位と呼ぶことがある)について説明するが、それぞれの区別については論理的でなく、慣用にもとづく場合が多いので注意する必要がある。

ピリオドと詩行、スタンザ

叙事詩や劇(悲劇・喜劇)のせりふの部分は1行単位で韻律上のまとまりが繰り返される。これを詩行(στίχος; versus; verse)と呼ぶ。これに対して、例えば劇においてコロス(合唱隊)が「歌う」部分は、それらより長いものが1つのまとまりになっている(テキスト上は「字下げ」をすることによって韻律的なまとまりが継続していることが示される)。このまとまりをピリオド(περίοδος; periodus; period)という。詩行とピリオドの区別は慣用的なものである。ここでは単に「ピリオド」といった場合、詩行とピリオドの両方を表すこととする。ピリオドの終わりの直前にある韻律のまとまりのことを韻律終結部(clausula)と呼ぶ。

文(sentense)は文法上、意味上のまとまりであるのに対して、ピリオドは韻律上のまとまりである。

スタンザ(stanza [it.])は古代には使われていなかった言葉である。3--4行から成るものが繰り返される場合にそれをスタンザと呼ぶことが多いようである。

ピリオド(詩行)については後で詳しく扱う。

ストロペー

ストロペー(στροφή, strophe)は、1つ以上のピリオドから成り、同じ形が繰り返されるものをいう。ストロペー同士が韻律的に一致していることを(狭義の)韻律対応(responsio; responsion)といい、韻律対応を起こしているストロペーのことをギリシア語で ἀπόδοσις という。

韻律対応しているストロペーが1対の場合、後の方はアンティストロペー(ἀντιστροφή; antistrophe)と呼ばれる。

ピリオドの内部で、基本的な小さな韻律単位(e.g. ia, an, tr, gl etc.)が対応していることも、韻律対応と呼ばれることがある。これは内部的韻律対応(internal responsion)と呼ばれ、ストロペー同士の対応は外部的韻律対応(external resposion)と呼ばれる。ここでは韻律対応と言った場合、外部的韻律対応の方を指すことにする(cf. Maas, §28 [p.23].)。

コーロン

コーロン(κῶλον, colon)は12音節以下の韻律上のまとまりである。普通はピリオドの分割されたものがコーロンになるが、(短い)ピリオドや詩行とコーロンが一致する場合もある。

コーロンについては後で詳しく扱う。

メトロンと脚

ある種の韻律においては、1つのピリオドが、同じか、または同等の韻律単位の繰り返しでできていることがあり、その韻律単位をメトロンまたは歩格(μέτρον, metron; metrum; meter)という。メトロンは3--6音節の韻律上のまとまりであるとされる。1つのピリオドが同じメトロン2つから成っている場合ディメトロスまたは2歩格(δίμετρος; dimetrus; dimeter)、3つから成っている場合トリメトロスまたは3歩格(τρίμετρος; trimetrus; trimeter)、4つから成っている場合テトラメトロスまたは4歩格(τετράμετρος; tetrametrus; tetrameter)などという。

コーロンとメトロンは、ピリオドを構成する韻律単位という点で同じである。

(πούς; pes; foot)もまたピリオドを構成する韻律単位であるが、ある種の韻律においては脚=メトロンとなる。イアンボス、トロカイオス、アナパイストスなどの韻律においては2脚=1メトロンとなり、メトロンで言及するよりも脚で言及した方がわかりやすい場合がある。ここでは、脚で言及しなければ意味がはっきりしない場合には脚で言及し、そうでない場合にはメトロンで言及する。

2脚=1メトロンとなる場合、そのまとまりは古代においてはシュッジュギアー(συζυγία, syzygia; syzygy)と呼ばれていた。これは「くびきにつながれた1対」の意味である。この用語を使う必然性はないので、ここでは用いない。

まとめ

以上の関係を図示すれば次のようになる。なお、詩行やピリオドの上位区分であるストロペーがいつも存在するわけではない。

韻律上の区切り
音節<(脚、メトロン、コーロン)<(詩行、ピリオド)<ストロペー

韻律上の区切りを文法上の区切りと一致させることは必須ではないが、韻律上のまとまりと文法上のまとまりが不一致を起こすことを避ける傾向はある。

カエスーラと架橋

韻律上のある位置に単語の切れ目がよく置かれる傾向がある場合がある。この位置を一般にカエスーラ(τόμη; caesura)と呼ぶ。カエスーラは一般にピリオドの切れ目よりも「弱い」切れ目である。カエスーラの位置でエリジョンを起こすことは許容される。

切れ目がメトロン間にある場合、それをディアイレシスまたは歩格間休止(διαίρεσις; diaeresis)と呼び、メトロン中にある場合、それをカエスーラまたは歩格中休止と呼んで区別することがあり、アリステイデース・コインティリアーノスにもディアイレシスという単語は出てくるが、このような厳密な区別は近代以降(Boeckh 以降)のものである。ここでは両者を代表してカエスーラということにし、ディアイレシスと厳密に区別することはしない。

カエスーラと反対に単語の切れ目が避けられる傾向にある位置があり、それが避けられる現象のことを架橋(ζεῦγμα, zeugma; iunctura; bridge)という。これは18世紀後半から20世紀前半に発見されたものが多い。たいていは発見者の名前を取って○○の法則(xxx's Law)とか、○○の架橋(xxx's bridge)と呼ばれる。

単語の「切れ目」

単語の「切れ目」は、見かけほど簡単には判別できない。一般に冠詞、前置詞などの前接辞(prepositive)はそれが係る後の単語と一緒のものとして、また後接辞(postpositive)は前の単語と一緒のものとして考えられる。逆に οὐδείς(=οὐδ' εἷς)は2単語として考えるとよい場合が多い。

単語の切れ目に関する法則において、一般には

  1. 前接辞の後の単語の切れ目は無視する
  2. 後接辞の前の単語の切れ目は無視する
  3. οὐδείς は οὐδ'- | -είς のように単語の切れ目が置かれてもよい

と考えると、その法則がよく成り立つ場合が多い。ただし、法則の記述の仕方としては、例えば Porson の法則のように「○○の位置に単音節語がある場合を除く」などのような例外の除外がされている場合もあるので、注意が必要である。

詩型

詩の形式は次の2種類に分けられる。

単詩行型とは、ヘクサメトロスやイアンボス・トリメトロスのように、単一の詩行の繰り返しでできているものである。校訂本上では1行ごとに行分けをして書かれる。ストロペー型とは、ストロペーを形成しているものをいう。


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