Last updated: 2008/12/23 by MATSUURA Takashi
人物 | ギリシア語名 | 略号(ギ) | ラテン語名 | 略号(ラ) | 説明 |
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ソーシアース | Σωσίας | Σω. | Sosia | Sos. | ブデリュクレオーンの奴隷 |
クサンティアース | Ξανθίας | Ξα. | Xanthia | Xanth. | ブデリュクレオーンの奴隷 |
ブデリュクレオーン | Βδελυκλέων | Βδ. | Bdelycleo | Bdel. | ピロクレオーンの息子 |
ピロクレオーン | Φιλοκλέων | Φι. | Philocleo | Phil. | ブデリュクレオーンの父 |
裁判員たちから成るコロス | Χορὸς δικαστῶν | Χο. | Chorus senum vesparum | Chor. | 蜂の姿をしている |
子ども | Παῖς | Πα. | Pueri | Puer. | |
犬 | Κύων | Κυ. | Canis | Can. | キュダテーナイ区出身 |
男 | Ἀνήρ | --- | Vir | --- | クレオーンにひどい目に遭わされた男 |
パン屋の女 | Ἀρτόπωλις | Αρ. | Mulier Panaria | Pa. | ピロクレオーンにひどい目に遭わされる |
告発者 | Κατήγορος | Κα. | Vir quidam Accusator | Acc. | ピロクレオーンにひどい目に遭わされる |
かっこ内の数字は特に断りのない限り行数である。
行 | 場 | 韻律 | あらすじ | 役者入退場 |
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1--229 | πρόλογος | Ia. Tri. | 夜明け前(216)のブデリュクレオーンの家。家は網で覆われ、ブデリュクレオーンが屋根の上で眠っている(67--68)。ソーシアースとクサンティアースの2人の奴隷が会話を行う。2人が与えられた仕事をサボる方法について会話しているうちに、主人たちのことが明らかになってくる。老人(ピロクレオーン)は病的な裁判好きで、息子(ブデリュクレオーン)の方はそれに困っている。しばらくするとブデリュクレオーンが起きる。ピロクレオーンが煙突から外に出てくる(144)。ピロクレオーンは裁判に行かせてくれとブデリュクレオーンに頼むが、ブデリュクレオーンは承知しない。 | Bdel. & Sos. & Xanth. inn. (1) Phil. in. (144) |
230--316 | πάροδος | コロスの入場。ブデリュクレオーン、ソーシアース、クサンティアースは劇が始まる前と同様に眠りにつく。 | Chor. in. (230) | |
230--247 | Ia. Tetr. | 老人たちから成るコロスは、暗くてぬかるんでいる道を歩くのに難儀している。合唱隊長が仲間を励ます。 | ||
248--272 | Eur. 14-syll. | 合唱隊長が子どもにランプの光を明るくするように言いつける。ピロクレオーンが現れないことを不審に思う。 | ||
273--289 | Cho. (~Ion.) | 合唱隊はピロクレオーンが現れない理由をいろいろ考える。 | ||
290--316 | Cho. (Ion.) | 裁判員手当が少ないことを嘆く。 | ||
317--333 | C. (Aeol.) | ピロクレオーンの歌。家に閉じ込められ、裁判所に行けないことを嘆く。神々へ祈る。 | ||
334--364 | Tro. & An. | コロス長がピロクレオーンに外出できない理由を訊く。コロス長とピロクレオーンは抜け出る方法を考える。 | ||
365--402 | Tro. & An. | ピロクレオーンは網を噛み切って、縄を使って窓から下へ降りる。ブデリュクレオーンは人声がするので起き、ピロクレオーンが降りようとしているので、ソーシアースを起こす。 | ||
403--460 | ~Tro. Tetr. | ブデリュクレオーンはピロクレオーンを捕らえる。コロスは、放さないなら針で刺すぞ、と脅す。ブデリュクレオーンはクサンティアースに蜂どもを追い払えと言いつける。 | ||
461--525 | ~Tro. Tetr. | ブデリュクレオーン、コロス、ピロクレオーンで専制政治や裁判制度について議論する。 | ||
526--630 | ||||
526--545 | Ia.-Chor. | ピロクレオーンは、自分がどれだけ立派な人間であるかを弁論によって示そうとする。ブデリュクレオーンは、自分がその弁論を筆記して、そうでないことを逆に示そうとする。 | ||
546--630 | ~An. Tetr. | ピロクレオーンの演説。裁判員ほど幸福で、ちやほやされ、怖がられているものは他にはない、と主張する。ブデリュクレオーンはそれらをいちいち筆記する。ピロクレオーンは裁判員の支配者としての利益をいろいろと述べ立てるが、一番楽しいのは、裁判員手当をもらって家に帰ると、娘や妻が大歓迎してくれることだと言う。 | ||
631--724 | ||||
631--647 | Ia.-Chor. | 理路整然とした見事な弁論だとコロスが賞賛し、ピロクレオーンも自画自賛する。 | ||
648--724 | ~An. Tetr. | ブデリュクレオーンは、裁判大好き病はアテーナイに古くから存在している、根絶の難しい病気だと考える。そこでピロクレオーンに、裁判員の日当はアテーナイの国家収入の10分の1にも満たないこと、金の多くはデーマゴーゴスの懐に入ることを教える。結局民衆には、主権が与えられているように見えながら、デーマゴーゴスたちにうまく丸め込まれているだけなのだ、と言う。ピロクレオーンを彼らの犠牲にせず、家で養ってやりたいのだ、とブデリュクレオーンは説得する。 | ||
725--759 | An. Tetr. | ブデリュクレオーンの見事な弁論に、コロスはピロクレオーンの弁論への賞賛を取り消す。ピロクレオーンはブデリュクレオーンの弁論に心を動かされつつも、裁判大好き病が再発する。 | ||
760--862 | ~Ia. Tri. | ブデリュクレオーンはピロクレオーンを引き止めるが、「裁判をしない、ということを除いては従おう」と言って取り合わない。困ったブデリュクレオーンは、「そんなに裁判が好きなら家でやりなさい、それに家の方が裁判所よりずっと快適だ」と言う。ブデリュクレオーンは裁判の道具を用意する。家での裁判の準備が行われるのを見てピロクレオーンは、「いつかアテーナイの人々はめいめいの家に小さな裁判所を自分用に建てるようになるだろう」ということを聞いたことがある、と言う。準備が調うと、ピロクレオーンとブデリュクレオーンは裁判のネタを考える。クサンティアースが、「犬のラベースが台所にあったシチリア製の上等なチーズを食べてしまった」と言ったので、それをネタにすることを決める。クサンティアースは原告になるのはごめんこうむる、と言って、もう1匹の犬(キュダテーナイ区の犬)を原告にする、と言う。 | ||
863--890 | *1 | 裁判の前の神々への祈り。 | ||
891--1008 | Ia. Tri. | 裁判の開始。訴状の読み上げ。ピロクレオーンはラベースを非難し、ブデリュクレオーンは弁護をする。そのあとで投票を行う。 | Phil. & Bdel. & Xanth. & Sos. exx. (1008) | |
1009--1121 | παράβασις αʹ | An. & Ia. & Tro. | ||
1122--1264 | Ia. Tri. | ブデリュクレオーンはピロクレオーンの短いマントを脱がせて新しいマントを着せようとするが、ピロクレオーンはいやがる。ブデリュクレオーンはさらにラコーニアー靴をはかせる。また、教養ある人々に交じって話をするすべと、宴会の時の上品な振る舞い方、スコリオンの作り方を教える。 | Phil. & Bdel. inn. (1122) Phil. & Bdel. exx. (1264) | |
1265--1291 | παράβασις βʹ | Tro. | ||
1292--1449 | Ia. Tri. | クサンティアースが登場する。彼はピロクレオーンたちの宴会で給仕をしていたが、ピロクレオーンが暴れだして手に負えなくなってしまった、と言う。そこへアウロス吹きの女を連れたピロクレオーンが千鳥足で登場する。彼は女に、息子が死んだら愛人にするよ、と言う。するとブデリュクレオーンが登場してピロクレオーンをなじる。このあと、ピロクレオーンが酔った勢いで乱暴狼藉を働いた人々が次々に登場して彼を訴えると言う。はじめに登場するのはパン屋の女、次に男の告訴人である。 | Xanth. in. (1292) Xanth. ex. (1325) Phil. in. (1326) Vir in. (1332) Bdel. in. (1364) Pan. in. (1388) Acc. in. (1416) Bdel. & Bdel. & Pan. & Acc. exx. (1449) | |
1450--1473 | コロスの歌。老人が暮らし方を変えたのをうらやむ。また、ピロクレオーンが父親を思って暮らし方を変えさせたことを賞賛する。 | |||
1474--1537 | ἔξοδος | クサンティアースが登場し、ピロクレオーンの行いに閉口しているさまを述べる。ピロクレオーンは長年やったことのない酒を飲んだり、笛の音を聴いたり、踊ったりしたのですっかり有頂天になってしまった。ピロクレオーンは家の中から登場して、自分より踊りがうまい者はいないだろうと自慢する。コロスはピロクレオーンのために踊る場所を空けようと退場する。 | Xanth. in. (1474) Phil. in. (1482) Chor. ex. (1537) |
*1
第1俳優 | 第2俳優 | 第3俳優 | 第4俳優 |
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Philocreo | Bdelycreo | Xanthia | Sosia |
30歳以上の市民には裁判員になる権利があった。毎年はじめに希望者が集められ、6000人の裁判員候補者のリストがつくられた。裁判が行われる日の朝に裁判員候補者が集められ、くじによってどの法廷の裁判員になるかが決められた。普通の裁判では500人の裁判員が選ばれたが、重要な案件についてはそれらがいくつか集められて大きな裁判員団を構成することがあり、多い場合には裁判員が6000人にも上ったが、それは例外的な場合だけであった。
最初裁判員は無報酬であったが、そのうちに日当が支払われるようになり、『蜂』が上演された時には3オボロスであった。日当を3オボロスに引き上げたのはクレオーンだと考えられている(Σ ad Vespas 88)。紀元前5世紀において熟練工の1日の稼ぎは1ドラクマ程度だったと考えられているから、3オボロスという日当は少額であり、普通の成人男子は進んで裁判員をやろうとはしなかったと考えられる。
この制度は民主的であり、大人数が裁判に関わるという点で、よりアテーナイ市民全体の意見を表していると考えられる。また、裁判の直前までどの裁判を行うかがわからないので、わいろを渡すことが難しいという利点がある。しかし、逆に大人数なので、巧みな弁論によって簡単にだまされてしまう、審理を行わずにすべて多数決で決めるために公平な意見を聞く機会がない、といった欠点がある。