eLearning/Greek
Comoedia(喜劇)†
喜劇の歴史†
アテーナイ以外でも喜劇は上演されていたが、我々に残されているのはほぼアテーナイの喜劇のみである。また、20世紀半ばにメナンドロスのパピルスが発見されるまでは、少数の断片を除けば伝存している喜劇作家はアリストパネースのみだったために、我々の知識はアテーナイの古喜劇のみに限られていたといっても過言ではない。
悲劇と同様、喜劇もアテーナイの祭礼で競演された。紀元前486年からは毎年大ディオニューシア祭で、紀元前440年頃からはレーナイア祭で毎年上演されている。それぞれ毎年5人の喜劇作家の作品が上演されたが、紀元前431--404年のペロポンネーソス戦争中は3人に減らされたといわれている。上演は悲劇と同様コレーゴスによって行われる形を取ったので、第1等を勝ち得た作家に対する公式な報賞はツタの冠だけであった。祭礼についてはeLearning/Greek/Festivalsも参照のこと。
完全な形で残っているもっとも初期の喜劇であるアリストパネースの『アカルナイの人々』でも、上演されたのは紀元前425年までしかさかのぼらないため、それ以前の喜劇についてはよくわからないが、喜劇の時代区分として、おおむね紀元前5世紀のものを古喜劇(κωμῳδία ἀρχαία; vetus/antiqua/prisca comoedia; Old Comedy)、その後アレクサンドロス大王の死の紀元前323年まで(ヘレニズム期以前)のものを中喜劇(κωμῳδία μέση; media comoedia; Middle Comedy)、紀元前323年から紀元前263年のものを新喜劇(κωμῳδία νέα; nova comoedia; New Comedy)という。古喜劇はアリストパネースに代表されるが、紀元前392年(?)上演の『議会の女たち』と紀元前388年上演の『プルートス』はコロスの役割という形式上の点から古喜劇とは区別され、中喜劇へ移行していると一般には考えられている。
代表的な喜劇詩人†
古代以来代表的な詩人が選ばれてきた。
三大喜劇詩人(Quint.)†
以下の順番は Quint. Inst. 10.1.66 による。
- アリストパネース(Ἀριστοφάνης; Aristophanes)
- エウポリス(Εὔπολις; Eupolis)
- クラティーノス(Κρατῖνος, Kratinos; Cratinus)
Cyrilli Lexicon†
アレクサンドレイアの司教聖キュリッロスI世(Κύριλλος Α΄ Αλεξανδρείας, Kyrillos; Cyrillus; c.378--444)が編纂したと言われる Cyrilli Lexicon によれば、次のようになる。以下は J.A. Cramer (ed.), Anecdota Graeca (Oxonii [Oxford], 1839--41), 4.196 による。
- 古喜劇(7人)
- エピカルモス(Ἐπίχαρμος, Epikharmos; Epicharmus)
- クラティーノス
- エウポリス
- アリストパネース
- ペレクラテース(Φερεκράτης, Pherekrates; Pherecrates)
- クラテース(Κράτης, Krates; Crates)
- (喜劇作家)プラトーン(Πλάτων, Platon; Plato)
- 中喜劇(2人)
- アンティパネース(Ἀντιφάνης; Antiphanes)
- トゥーリオイのアレクシス(Ἄλεχις Θουρίος, Alexis Thourios; Alexis Thurinus)
- 新喜劇(4人)
- メナンドロス(Μένανδρος, Menandros; Menander)
- ピリッピデース(Πιλιππίδης; Philippides)
- ディーピロス(Δίφιλος, Diphilos; Diphilus)
- ピレーモーン(Φιλήμων, Philemon; Philemo)
古喜劇†
悲劇と違って役者は3人ないし4人である。コロスは24人から成り、半分に分かれることがよくある。
古喜劇は以下の形式をもつとされる。
| 名称 | 解説 |
1 | πρόλογος, prologus(プロロゴス) | コロスが入場する前の導入的な部分 |
2 | πάροδος, parodos(パロドス) | コロスの入場 |
3 | ἀγών, agon(アゴーン) | 2人の人物が「論議」をする部分 |
4 | παράβασις, parabasis(パラバシス) | コロスが前に進み出て、観客に向かって劇の筋と関係ないことを語りかける部分 |
5 | ἐπεισόδιον, epeisodion(エペイソディオン) | コロスの歌をはさみながら役者がせりふを言う部分 |
6 | ἔξοδος, exodos(エクソドス) | 結尾の部分 |
中喜劇†
392年(?)に上演されたアリストパネースの『議会の女たち』と388年に上演された『プルートス』は、パラバシスの消失とコロスの役割の低下という点から、中喜劇の初期の作品だと考えられている。これら以外の中喜劇の作品はすべて散逸したため中喜劇がどのようなものであったのかを知るのは難しいが、次のように考えられている。
- 衣装など
- 題材
- 前期には神話に取材したものが多い。
- 政治的なものは題材として選ばれることは少なくなった。
- 社会の中の類型的な人物を描くことが多くなり、市民の実際の生活の描写が多くなった。
新喜劇†
新喜劇は次のような特徴をもつ。
- 形式
- 全5幕に分けられる。
- コロスは次のようになっている。
- 幕間に登場する。
- 劇の筋とは関係ないことを歌って踊る。
- 幕中に登場して役者と対話したりはしない。
- 衣装など
- マスクは使われ続けたが、他は普通の市民の衣装であった。
- 題材
- 政治的な要素はまったく見られない。
- 富裕階級の現実的で類型的な話を扱う。
- 古喜劇と違ってアテーナイ市民にしかわからないようなものは扱わない。
参考文献†
テキスト・注釈†
- Austin, C. (ed.), Comicorum Graecorum fragmenta in papyris reperta (Berolini, 1973). amazon
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- Kaibel, G. (ed.), Comicorum Graecorum fragmenta (Berolini, 1899). [CGF] Vol. 1 fasc. 1 Internet Archive: Vol.I: 1 2
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- Kock, T. (ed.), Comicorum atticorum fragmenta (Lipsiae, 1880–1889). [CAF]
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研究書†
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