Last updated: 2009/12/23 by MATSUURA Takashi
以下では現存写本の複製である「副本」(apographa)は基本的に考慮しないことにする。
アイスキュロスには100以上の写本が存在することが知られているが、ビュザンティオン三篇選集(Byzantine triad)に含まれる『縛られたプロメーテウス』『テーバイ攻めの七将』『ペルシア人たち』の写本は比較的多いが、それ以外を含む写本は少ない。特に『救いを求める女たち』『コエーポロイ』を伝えている写本は1つだけである。
もっとも古い写本は10世紀後半に筆写されたと考えられるM(Mediceus)であり、それ以外は13--16世紀のものである。すべての現存写本はMに由来すると古くは考えられていたが、Wilamowitz はMとは独立の散逸写本Φの存在を仮定した。
ω / \ M Φ
Murray の校訂本(1937, 1955 [2])は Wilamowitz の示した写本系譜にもとづいている。
Turyn は副本を含む135写本を校合し、写本系譜を作成した(Turyn, 115)。しかし Dawe は、混成(contamination)を考慮すると、おおまかな写本群の区分けはできるものの、Turyn の描いたような明確な写本系譜は作成できないことを示した。Page の校訂本(1972)はこれを踏襲して、apparatus criticus には長い証跡(witness)のリストが作成されている。West の校訂本(1990, 1998 [2])は、写本群の区分けが「おおまか」であることを踏襲しつつも、apparatus criticus では写本群を表す記号を用いて、より簡潔に示している。
M, I写本にはスコリアがたくさんつけられており、これはディデュモスにさかのぼり得るものと考えられる。
以下に代表的な写本のうちのいくつかを挙げる。
記号 | 棚番号 | 時代 | 所在 | 材質 | フォリオ数 | 大きさ | 含んでいる劇 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
M | Laurentianus 32.9 | 10c | メディチ=ラウレンツィアーナ図書館(フィレンツェ) | 羊皮紙 | 264 | 309 x 212 mm | . . ., Per., [A.], [Ch.], PV, Eu., Th., Supp., . . . | Mediceus |
V | Marcianus graecus 468 (653) | 13c | 聖マルコ国立図書館(ヴェネツィア) |